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2016年ワールド・ミュージック・ベスト・アルバム【第8位〜10位】

はじめに

 何年かぶりにワールド・ミュージック部門の年間ベスト・アルバムを復活しました。

 私が音楽をもっとも集中して聴けるのは早朝ランニングのときです。平日は10〜12km走っているので、キロ5分30秒とすると55〜66分、だいたいCD1枚分です。
 これらの時間はもっぱら『ミュージック・マガジン』『レコード・コレクターズ』誌から依頼された新作のレビューの試聴に当てています。

 こうした事情もあって2誌でレビューしたアルバムが6作入りました。短期間に何度も何度も聴くうちに愛着が湧いてしまうんでしょう。
 その他の4作を1〜4位にしたのは便宜上です。5位以降は原稿を終えた後もランでよく聴いているものです。

 まずは10位から8位までの発表です。



第10位 Kepa Junkera & Sorginak 『Meletak』 ビーンズ (スペイン〜バスク)

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 スペインとフランスにまたがるバスク地方の伝統文化に根ざしながら、現代性を備えた音楽を創造し続けるトリキティシャ(ダイアトニック・アコーディオン)の名手ケパ・フンケラの新作。前作に続いて、バスク語で〝魔女たち〟を意味する清楚なお嬢さん系ユニット、ソルギニャクがコーラス&パンデイロ(タンバリン)でサポート。

 全17曲中、7曲がヴォーカル入りで残りはインスト曲。軽快に跳ね回るケパの饒舌なトリキティシャに〝魔女たち〟がさわやかなアクセントを与え、曲に応じて、アルポカ(角笛)、チャラパルタ(打楽器)、トロンバ(口琴)といったバスクの伝統楽器を中心にサックス、スパニッシュ・ギター、ヴァイオリン、ハーモニカなどが加わる。

 8位に選んだワルシャワ・ヴィレッジ・バンドとちがい、全編アクースティックのトラッド・フォークで、他の音楽ジャンルとのミクスチャーにも過激さはないのだけれども、スペイン各地から招いたさまざまな音楽家たちとのコラボから生み出されるサウンドは気品があって楽しくて思わず踊りたくなる。





第9位 Caitro Soto 『Caitro & Felix』 ビーンズ (ペルー)

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 ワールド・ミュージックがすっかり下火になった95年頃、ペルー音楽がちょっとしたブームになった。「コンドルが飛んで行く」のような、いわゆるフォルクローレではないペルー音楽が次々とCD発売されたのだ。

 そのひとつにペルーを代表する女性シンガー・ソングライターのチャブーカ・グランダが81年に録音した名作『カダ・カンシオン・コン・ス・ラソン』があった。このアルバムで四角い木の箱に跨がりこれを両手で叩いて演奏するペルー独自の打楽器カホーンを操り、2曲で歌を披露していたのがカイトロ・ソトである。

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 そのなかの1曲が「トロ・マタ」だった。この伝承曲はカイトロの代表曲であるばかりか、アフロ・ペルー音楽を代表する名曲である。かのセリア・クルースも70年代初めにサルサ・アレンジでカヴァーしヒットさせている。(今回7位に入れたアイメー・ヌビオラのアルバムにはそのカヴァーのカヴァーが入っている。)

 同じ頃、デイヴィッド・バーンのレーベル、ルアカ・バップから世界デビューしたペルーの女性歌手スサーナ・バカが92年に発表したアフロ・ペルー音楽のアルバムに、その歴史について書かれた150ページ近いブックレットを付けて段ボール・パッケージしたCDブック『Del Fuego y Del Agua』がアメリカのレーベルから発売された。

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 このアルバムにも「トロ・マタ」は入っていたのだが、そこで華麗なアクースティック・ギターのプレイを聞かせてくれたのが名手フェリクス・カサベルデだった。私がフェリクスを知ったのはこのときだ。
 
 本作は、70年代のアフロ・ペルー黄金時代を牽引した、今は亡きこの2人の巨匠が共演した晩年の未発表音源集である。

 プロデューサーはミキ・ゴンサーレス。80年代、ペルーの音楽シーンにパンクやニューウェーヴのテイストを持ち込んだ鬼才ギタリストで、最近はアフロ・ペルーやアンデスの伝統音楽と、ロックやクラブ系音楽とのミクスチャーにも手がけている。
 先頃、アンデスの伝統音楽を自ら録音しプロデュースした『Real Andes Series Vol.1』が選曲センスのよさと高音質で話題になった。

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 解説によると、97年に糖尿病に苦しんでいたカイトロと再会したミキの発案でフェリクスとのレコーディングが開始された。ところが、04年にカイトロが、11年にフェリクスが亡くなったことで暗礁に乗り上げてしまった。
 その未完成音源にイメージを損なわないよう配慮して新たに手を加えて完成にこぎ着けたのが本作だそうだ。
 
 野太く、力強く、朗々とした歌いっぷりのカイトロだったが、本作の彼には往年の勢いはなく、声はくぐもり音程もかなり危なっかしい。だが、歌を心から楽しんでいるムードは痛いほど伝わってくる。

 数え切れないほど歌った「トロ・マタ」も人に聞かせるためというより上機嫌のあまり思わず口をついて出てしまったという感じだ。カイトロの歌とカホーンだけで演じられるラストの「ラ・テンデーラ」に至っては、温泉に浸かって風呂桶を叩きながら鼻歌を歌っている風情さえ漂う。このヨレヨレ感が愛らしくてたまらない。





第8位 Warsaw Village Band 『Sun Celebration』(2CDs) ライス (ポーランド)

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 ポーランド出身のネオ・トラッド系7人組ワルシャワ・ヴィレッジ・バンドによる通算7枚目、4年ぶりの新作。
 甲高い音色のダルシマーと、2挺のヴァイオリン(フィドル型伝統楽器スカやハーディ・ガーディなども併用)を担当する女性3人がグループの中心でヴォーカル・コーラスも担う。ブルガリアン・ヴォイスを思わせる神秘的なポリフォニーを聞かせてくれる。その他、ウッドベース1、伝統打楽器2人、トランペット1の楽器編成。

 加えて本作では、スペインのケルト文化圏ガリシア出身の女性アーティスト、メルセデス・ペオン、二胡に似たペルシャの伝統楽器カマンチェの名手カイハン・カルホール、インドからチェロ型楽器サーランギ、手押しオルガンのハルモニウム、打楽器タブラのプレイヤーたちがゲストで参加。

 アルバムは2枚組で、「太陽」と題されたCD1にはリズミカルでトランシーな楽曲、「月」と題されたCD2には内省的でアンビエントな楽曲を中心に収める。異文化圏の音楽とのコラボというと、パッチワーク的な印象がぬぐえないのだが、本作に限っては違和感はまったくなく見事に融合している。

 メルセデス・ペオンの高らかなヴォーカルと透明なコーラスとのコンビネーションといい、ペオンが奏でるガイタ(バグパイプ)のドローン音とストリングスのオスティナートとの取り合わせといい、すべてにおいてミクスチャーは成功している。

 なかでもスクラッチとエレクトロニクスが加わる10分以上に及ぶ「Perkun's Fire」は、トラッド、民俗音楽、ミニマル音楽、実験音楽、ロック、ヒップホップなどが渾然一体となったトランス音楽の傑作だ。
 私はこの12月にあった袋井クラウンメロンマラソンでも茶畑が広がる丘陵を走りながらこの曲に酔いしれていた。

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プロフィール

tpokjazz

Author:tpokjazz
月平均走行距離200〜300kmの早朝型フォアフット・ランナー。好きな音楽は、ワールド・ミュージック、ロック、ジャズ、ソウル、ファンク、Jポップなど、ディープでコアな音楽全般。

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